気象トピックス・コラム
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「特異日」って…?

 

「特異日」という言葉をご存知でしょうか?特異日とは、「その前後の日と比べて、偶然とは思えないほどの高い確率で特定の気象状況(天気、気温、日照時間など)が現れる日」といわれています。
9月には、「台風襲来の特異日」があります。それが、まさに台風18号が日本に襲来している、きょう「9月17日」と、「9月26日」です。
なぜ、きょうが「台風襲来の特異日」かというと、戦争直後の1947年に「カスリーン台風」、1948年に「アイオン台風」、そして、1961年の台風18号である「第二室戸台風」と、大きな犠牲者や被害をだした台風が、この日に襲来しているためです。

 

また、「9月26日」の場合は、1950年代に、甚大な被害をもたらせた台風が3個襲来しました。それが、1954年の台風15号(洞爺丸台風)、1958年の台風22号(狩野川台風)、1959年の台風15号(伊勢湾台風)です。今回は、「9月26日」の3個の台風にスポットをあてて、お伝えします。

 

・洞爺丸台風

青函連絡船である洞爺丸は1954年の台風15号により沈没し、多くの犠牲者と被害がもたらされ、「洞爺丸台風」と名付けられました。この台風は九州に上陸した後、上空の強い偏西風に流されて、最高時速100kmを超える猛スピードで日本海を通過、その日のうちに北海道に達し、船の沈没の被害をもたらせました。日本付近で急速にスピードを上げる点で秋台風の典型とも言える台風です。沈没した洞爺丸は、1155名の犠牲者をだし、戦争による爆撃を除けば世界史上3番目に最悪な海難事故となりました。さらに、洞爺丸だけでなく、他の4隻の青函連絡船も沈没したため、結局、5隻あわせて1430名という尊い命が奪われました。

 

・狩野川台風

1958年の台風22号は、狩野川台風です。狩野川は、静岡県の東部を流れる川です。この台風は雨台風で、特に伊豆半島では、3時間に200ミリ以上、総雨量が700ミリを超える大雨となり、狩野川の上流では、鉄砲水土石流が、避難所もろとも流出し、多くの犠牲者を出しました。この台風は、狩野川流域だけでなく、関東地方の広い範囲に大雨を降らせ、死者、行方不明者1269名、負傷者1138名、広い範囲で住家被害や、浸水害もありました。死者、行方不明者のうちの900名あまりは、伊豆地方での被害者でした。私は、静岡県の沼津市出身なのですが、このときには、川のごく下流に住んでいた亡き祖母の話によると、濁流にまみれて、犠牲者が次々と流れてきたとの話を聞いています。

 

・伊勢湾台風

1959年の台風15号は、伊勢湾台風です。伊勢湾は、三重県と愛知県の境目にある湾です。この台風は大型で、フィリピンの東で24時間に91hPaも発達したのですが、勢力があまり衰えないまま日本に近付きました。死者、行方不明者5098名、住家被害や、浸水被害、船舶被害など、近代日本において最も大きな傷跡を残した台風のひとつとして歴史に刻まれています。伊勢湾の水位が、干潮時刻にもかかわらずどんどん高まり、名古屋港では3.45mほどという、60年に1度といわれていたほどの高潮が発生し、湾岸と河川の堤防があわせて50箇所以上決壊しました。この高潮による被害が大きかったのも犠牲者が多かった理由のひとつです。また、高潮に関する最大の警報を呼びかけていた時間帯には、すでに近隣では大規模な停電が起こっており、ラジオからの情報を得ることができず、避難できなかった人も多かったそうです。

 

これらの台風により、いくつか整備されたものがあります。
洞爺丸台風をきっかけに、青函トンネルの建設を急ぐ動きと、アメリカで開発されたばかりの数値予報の日本での導入を決めました。とはいえ、すぐにできたわけではなく、青函トンネルは1988年3月に開通し、数値予報は、1959年3月に導入されました。
また、狩野川台風に関しては、かつてから計画されていた「狩野川放水路」の拡幅など仕様が変更され、完成も急がれ、1965年7月に完成しました。このように、大きな被害を受けるたびに、防災における設備は、強化されています。
そして、伊勢湾台風は、前年の狩野川台風以上の被害が予想されたため、初めて予報官がテレビに出演し、警戒を呼びかけた台風です。この台風以後、ラジオで地域に密着した情報を住民に伝え、テレビで被災地の惨状を全国に伝えるという災害情報の基本が確立されたそうです。また、2年後の1961年には、災害対策基本法が制定されました。

 

しかしながら、1960年以後は、9月26日に台風による被害はあまりでていないのも事実です。このため、この日はもはや「台風の特異日」ではないという説もあります。
台風などの気象災害による被害は、予報技術の進歩、情報伝達手段の発展、河川や防波堤の改修などにより1つの台風で1000人を超える犠牲者を出す台風は、いまの時代にはなくなりましたが、地球温暖化などの影響で、今後、スーパー台風と呼ばれる猛烈な台風が、日本にやって来ることが心配されています。
これまでの公共の設備などを過信せず、最新の気象情報をいち早く聞き、迅速かつ適切な避難ができるよう普段から心がけて頂ければと思います。

 

参考文献:「気象災害の辞典」 朝倉書店
「日本気象災害史」 イカロス出版