気象トピックス・コラム
春の雨
春の雨

冬から春の季節の変わり目には、高気圧の中心が北日本に偏り日本の南の海上に低気圧や前線が現れる「北高型」と呼ばれる気圧配置になることがあります。この気圧配置は西日本や東日本に梅雨のように長く雨を降らせることがあり、これを「春霖(しゅんりん)」と呼びます。「霖(りん)」には3日以上続く長雨という意味があり、これに「春」をつけて春の長雨です。また、菜の花の咲く時期でもあるため「菜種梅雨(なたねづゆ)」とも呼ばれます。このように、春の雨には様々な名前があるのをご存じでしょうか。

まず、「立春」で寒が明け、ちょうどその頃に降る雨が「寒明けの雨」です。なんとなく春を感じる雨ですが、この時期の雨は雪交じりの地方もあり春の雨とは名ばかりの冷たい雨です。また、春先は寒暖差が激しく、雨はみぞれに変わったりボタン雪になったりします。このときに降るのは「春霙(はるみぞれ)」です。

2月の末から3月になると、「春雨(はるさめ)」が使われます。雨脚が細かく、けむるように降る雨です。「けむる」には、雨・霧・霞などで辺りがぼんやりするという意味があり、「甘雨(かんう)」など優しく降る印象の名前がついています。木の芽に雨がほどよくそそぎ、その成長を助けるという意味で「木の芽雨(このめあめ)」も用いられます。

花が咲く頃になると雨の名前も変化します。桃の花の咲く頃に柔らかく静かに降る雨を「桃花(とうか)の雨」、杏の花が咲く頃の雨は「杏花雨(きょうかう)」です。桜の花の頃になると「桜雨(さくらあめ)」や「華雨(かう)」など桜にちなんだ名前がつけられます。

春の雨にはやわらかく降り注ぐ雨という印象がありますが、荒れた天気の時に降る雨もあります。「春驟雨(はるしゅうう)」は、夏のにわか雨をあらわす「驟雨」に春を添えて春のにわか雨を意味します。「春夕立(はるゆうだち)」も同じような意味で、夏の激しい夕立ほどの強さはなくとも雷を伴うことがある雨です。

長雨が続くと少し憂鬱な気分になりますが、春の雨は植物に新たな生命力を与えてくれます。私たち人間にとっても天からの恵みといえるでしょう。

 

参考文献:小学館「雨の名前」