気象トピックス・コラム
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ロンドンスモッグ

 

ロンドンは、「霧の街」と言われています。私の知り合いが、かつてロンドンに駐在していたのですが、ロンドンでは、9月中旬から2月ごろまで曇天の日が多く、緯度も日本より高いため、夜暗くなるのも早いので、なんとなく空気が重苦しい感じがするそうです。それは、ロンドンの冬の「霧」が要因のひとつなのですが、この「霧」によって発生した「スモッグ」が、かつて大規模な犠牲者をだした大事件がありました。

 

「スモッグ」とは「smoke(煙)」と「 fog(霧)」とから合成された語で、大気汚染物質の粒子が凝結核となった霧のことをいいます。1952年のきょうにあたる12月5日は、「ロンドン・スモッグ」と呼ばれる歴史に残る事件が起こった日です。この日の朝は、大きな移動性高気圧が南イングランドに停滞しはじめ、地上付近の気温は0℃以下に冷え込み、「逆転層」ができました。

 

「逆転層」とは、一体何なのか?少し詳しく説明します。気温は、通常は、上空にいくほど低くなっていきます。ところが、高気圧に覆われて晴れた日には、風も弱く、地表の熱が奪われる放射冷却が強まって、地表付近だけ冷やされ、結果として地上の方が上空の気温よりも低くなることがあります。この気温の低い層が「逆転層」で、この日のイギリス付近では、地上から60~90mの高さの逆転層ができたと考えられています。煙突から出たばい煙が、この逆転層内に留まってしまいました。逆転層内は風も無くばい煙が滞留しやすいので、局地的な「スモッグ」を引き起こしたのです。

 

この高気圧は、12月10日ごろまでイギリスを覆い、当時、石炭を多く使用していたロンドンでは、気温が0℃以下と冷え込んだこともあり、家庭用の暖炉や火力発電所などの使用量が増え、それによって発生した石炭による大量の大気汚染物質が上昇し、「逆転層」により冷たい大気の層に閉じ込められ、高濃度の大気汚染物質を含んだ霧でとても見通しが悪くなり、昼間でも車の運転ができないほどの濃いスモッグが発生し、空気中の有害物質によって1万人以上の死者をだすという大惨事となったのです。

 

もともと、こういった「スモッグ」による健康被害は、産業革命の後から徐々に起きてはいたのですが、この大事件の後、イギリスでは、大気浄化法などが定められ、排煙を出すことを禁じる法案が出され、燃料も石炭から天然ガスへの転換が進みました。「スモッグ」は徐々に改善され、このような健康被害はなくなりました。本来霧は微小な水滴が浮遊しているだけで、健康に害をもたらすことはありません。空気が綺麗になり、スモッグのなくなったロンドンの街はあるべき姿の「霧の都」の名を取り戻しているのではないでしょうか?